「アウグスティーナー教会」 ハプスブルク家の心臓埋葬
「「国立図書館プルンクザール」を見学する」のつづき。
オーストリア国立図書館プルンクザールの左隣は、「アウグスティーナー教会」(Augustinerkirche) 。 ハプスブルク家54人の心臓をおさめた壺が安置されている「ロレット礼拝堂」(Loretokapelle)があります。
入口ドアには、「物乞いと行商禁止」 という貼り紙。 この単語がわからなくて、いいのかな~と不安になった
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アウグスティーナー教会は、フリードリヒ美公 (Herzog Friedrich der Schöne) と呼ばれたドイツ王、フリードリヒ3世 (Friedrich III. 1289-1330)によって、1327年に設立。1349年に献堂。 天井の尖塔形アーチと交差リブ・ヴォールトのゴシック建築
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その中でも重要な位置を占めるのが、「ロレット礼拝堂」 (Loretokapelle)。
※入って右側奥に、施錠された扉がある。 見学は、ガイドツアーのみ(後述)。
この礼拝堂は、フェルディナンド2世 (1578-1637) の2度目の皇后、エレオノーラ(Eleonore von Gonzaga イタリア、マントヴァのゴンザーガ家出身) が、「ロレートの聖母」(La Madonna di Loreto)と呼ばれる 「黒い聖母(マリア)」を祀る、イタリアのサントゥナリオ・デッラ・サンタ・カーザ Santunario della Santa Casa (Basilica della Santa Casa) と同じようなものを、アウグスティーナー教会の中に作りたいと希望して作られたもの。 1627年に聖別。
そして、1634年、教会は宮廷の教区教会に昇格。 ロレット礼拝堂は、公的にも認められた、王家のプライベート・チェペルとなる。
http://www.augustinerkirche.at/augustinus.php?sublink=f8
それゆえ、アウグスティーナー教会では、1736年のマリア・テレジアとフランツ1世の結婚式など、数多くのハプスブルク家の結婚式が行われるようになりました
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そして、埋葬儀礼につしては、ハプスブルク家が果たす役割を特別に考慮して、心臓は銀の容器(例外で金製が一つあり)に入れて 「アウグスティーナー教会」 (Augustinerkirche) の 「ロレット礼拝堂」 (Loretokapelle) に。 心臓以外の内臓(肺、胃腸、肝臓など)は、銅の容器に入れて 「シュテファン大聖堂」 (Stephansdom) の地下安置所に。 それ以外の遺体は、「カプツィーナー教会」 (Kapzinerkirche) の地下にある皇帝廟にと、三箇所に分けて安置。
そして、このロレット礼拝堂には、この皇帝廟の創始者、皇后マリア·アンナ (Maria Anna 1618年死去) から、皇帝フランツ·ヨーゼフの父、大公フランツ·カール (Erzherzog Franz Karl (1878年死去) に至るまで、ハプスブルク家 54人の心臓が安置されている
★「ハプスブルク家の心臓埋葬」 Die Herzgruft der Habsburger
http://www.augustinerkirche.at/augustinus.php?sublink=f9
★「ガイド付き見学」(Führungen フュールング, guided tour)は、(AM11:00 からの) 日曜日の「荘厳ミサ」 "Hochamt" (ホーホ・アムト High Mass) の後で、 あるいは (bzw. = beziehungsweise ベツィーウングスヴァイゼ、or)、「教会事務所」"Pfarrkanzlei" (プファレ・カンツライ) への「予約申し込み」 (Voranmeldung フォーア・アンメルドゥング) が必要
sonntags nach dem Hochamt bzw. auch nach Voranmeldung in der Pfarrkanzlei (Tel:533 70 99). Erwachsene (エアヴァクセネ, 大人 adult) 2,50 euro、 kinder (キンダー, 子供 children) 1,00 euro
★ミサ "Gottesdienste"(ゴッテス・ディーンステ Mass)の曜日と時間は、http://www.augustinerkirche.at/augustinus.php
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ロレット礼拝堂の内部には、「黒い聖母」像が置かれている
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ところで、遺体から心臓だけを取り出して壺に収めるといった心臓埋葬は、つい最近の2011年7月のハプスブルク帝国(オーストリア=ハンガリー帝国, 1918年帝政廃止)の最後の皇太子だった、オットー・ハプスブルク (Otto von Habsburg, 1912-2011) の葬儀でも行われ、オットーの心臓は、ハンガリーのパンノンハルマ (Pannonhalma) 修道院に 遺体は、カプツィーナ教会の皇帝廟に安置されている。
そのビジュアルで想像すると、たとえ手術の後だとしても、ちょっと怖いものがある・・・。 ハプスブルク家の伝統を大切に守ったとも言えるのだけど。
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この心臓埋葬は、イングランドのリチャード1世(獅子心王、Richard I, Richard the Lionheart, Cœur de Lion, 1189-1199)や、フランスのルイ9世(1214-1270)の死に際しても行われ、ハプスブルク家特有のものではない。
そして、ドイツ、バイエルンのヴィッテルスバッハ家でも、映画「ルートヴィッヒ」でおなじみ、ル-トヴィッヒ2世を含め、心臓埋葬が行われており、「バイエルンの(信仰の)心臓」とよばれる、アルトエッティングの「恵みの礼拝堂」(Gnadenkapelle (Altötting), "Chapel of Grace")、緑の屋根の八角堂には、「黒い聖母」(黒いマリア) "Schwarze Madonna" (Black Madonna) 像の向かいに歴代バイエルン王らの心臓が納められている http://www.altoetting.de/
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ところで、心臓信仰は、フランスのカトリック修道女、聖マルガリタ・マリア・アラコック (Marguerite Marie Alacoque 1647-1690) の前にイエス・キリストが現れ、自らの心臓を示したという奇跡に基づく(Wiki 英語版の図参照)。
だから、パリのモンマルトルにあるサクレクール寺院 (Basilique du Sacré-Cœur) は、「聖なる心臓」の寺院を意味し、「聖心」(Sacred Heart)とは、精神的な 「心」 をこえる意味を持つ (Wiki)
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心臓埋葬については、養老孟司「ヨーロッパの身体性」 第1回「ハプスブルク家の心臓埋葬」/「考える人」季刊誌 2012年春号 No.40 (新潮社)、 第2回「心臓信仰」/「考える人」季刊誌 2012年夏号 No.41 掲載の記事がとても参考になり、このブログ記事もこれを参照しているが、これを知ったときには、かなりびっくりしてしまった
むろん精神性を重視していることを前提に、肉体的な心臓を、精神とは切り離さずに重視している点
仏教やヒンドゥー教では、肉体よりも魂を重視し、輪廻転生。 火葬でもノープロブレム。
これに対して、ユダヤ・キリスト教の世界やイスラム教の世界のように、最後の日の 「復活」 という概念があるところでは、火葬に関する解釈はじめ、いろいろ違ってくるのだろう。
脱線したけど、宗教に関しては、中村うさぎ、佐藤優の対談 「聖書を読む」(文藝春秋)、「聖書を語る
」(文春文庫) が、神学的思考、神の非合理性、聖書は男のファンタジー(笑)などなど、面白くて非常に勉強になった
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アントニオ・カノーヴァ (Antonio Canova, 1757 - 1822) による記念碑(Canova-Denkmal 1798/1805)
http://www.augustinerkirche.at/augustinus.php?sublink=f5-4
ところで、イタリア・ヴェネツィアにある 「サンタ·マリア·デイ·フラーリ教会」 (Basilica di Santa Maria Gloriosa dei Frari)には、カノーヴァの弟子によって、このピラミッドの記念碑に似たものが作られ、カノーヴァの心臓の入った壺が埋葬されている。
と、またもや 「心臓埋葬」 なのでした。。
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